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東京地方裁判所 平成8年(コ)18号 決定 1997年5月16日

申立人(債務者)

株式会社東京財資ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役

松野公一

右申立代理人弁護士

多比羅誠

腰塚和男

森宗一

清水祐介

瀬戸仲男

主文

別紙和議条件による本件和議を認可する。

理由

一  本件和議の可決

申立人は、その関連会社である株式会社東京財資ゴルフ倶楽部(旧商号を株式会社協和開発と称し、当庁平成八年(コ)第一七号事件の申立人。以下「麹町財資」という。)、宮門城カントリー倶楽部株式会社(同第一九号事件の申立人。以下「宮門城」という。)及び株式会社東京国際研修会館(同第二〇号事件の申立人。以下「研修会館」という。)とともに、平成八年七月一八日、各自和議の申立てをし、平成九年五月八日、いずれも債権者集会が開催されたものである。申立人においては、別紙和議条件による本件和議の提供をしたので、直ちにその可否について採決したところ、議決権を行使することができる出席債権者四八六名中の四八二名がこれに同意し、その債権額は合計四三六億四四八八万三九四一円であった。これは、和議の可決に要する出席債権者数の過半数(二四四名)以上にして、議決権を行使することができる届出債権総額(四五一億二九七五万九〇三三円)の四分の三(三三八億四七三一万九二七四円)以上に当たるから、本件和議は可決された。

なお、野村ファイナンス株式会社の和議債権届出に関しては、その議決権について、整理委員弁護士永島正春及び和議管財人弁護士近藤登から異議が述べられており、当裁判所においてもその届出にかかる和議債権の存在について証明があるものとは認め難いので、議決権行使額が存在しないものと定めた。

二  和議不認可事由の存否

1  本件和議条件の履行可能性とその前提をなす再建計画の実現可能性

一件記録によれば、主として、申立人はゴルフ会員権(預託金制会員権)の募集販売及びゴルフ場運営を、その関連会社である麹町財資はゴルフ場開発の許認可法人でありゴルフ場用地の買収を、宮門城はゴルフ場用地の買収を、研修会館はゴルフ場のクラブハウスを包含したホテル等の建設をそれぞれ担当し、共同して千葉県山武郡芝山町においてゴルフ場の開業を準備中に債務超過かつ支払不能の財産状態に陥ったものである。そして、本件申立人ら四社は、本件和議条件の履行及び再建の計画について、概要、スポンサー企業からの融資を得て、未完成のゴルフ場を完成・開業させたうえ、新たにゴルフ会員権(預託金制会員権)を販売し、その販売益によってゴルフ場建設等の開業に要した費用及び和議債権の弁済をし、その後は、ゴルフ場からの収益をもって、新規会員の利益を害することなく申立人ら又はその合併による事業継承会社の存続を図ることができると主張する。そこで、本件和議条件の履行可能性及び再建計画の実現可能性について検討する。

(一)  本件和議条件の履行可能性

(1)  開業準備中の事業の完成を再建計画の中核とし、そのための新たな債務負担を不可欠の前提とする和議については、申立時の事業の未完成又は新たな債務負担のあることのみを理由に、ただちに債権者の利益を害するものということはできないというべきであり、たとえ当該再建計画に基づく新規借入等が和議債権者の利害にかかわるものであっても、和議条件の履行可能性が見込まれ、かつ、和議債権者が提供された和議条件を是として承諾するものであるならば、倒産した債務者の債務関係を債権者多数の譲歩によって整理することになるのであるから、和議債務者の全面的な清算を回避するという和議制度の趣旨に反するものとはいえず、他にこれが公序良俗に違反して無効であると解すべき理由はない。

そこで、本件ゴルフ場開業の可能性について検討すると、一件記録によれば、本件ゴルフ場完成・開業に要する費用及び本件和議条件による和議債権の弁済の原資として約一一〇億円ないし一三五億円の必要資金が見積られるところ、千代田生命保険相互会社、昭和リース株式会社及び株式会社京葉銀行の三社が中核となって、各社の関係会社とともに、右予測される必要資金相当額の一三五億円を上限にしながら、千代田生命及び昭和リースが概ね各四割の比率、京葉銀行が概ね二割の比率又は一〇億円の金額をもって、申立人ら又は合併により生じる事業承継会社に対し、ゴルフ場完成・開業等に必要な資金を融資する旨約しており、ゴルフ場建設の施工主体となる株式会社熊谷組の協力の意思及び能力、従前の地権者との交渉経緯や地元自治体の協力状況等の諸事情を併せ考慮すると、未取得のゴルフ場用地を買収又は賃借したうえ、ゴルフ場を完成・開業させる可能性があることを認めることができる。また、本件ゴルフ場開業後の新規のゴルフ会員権について、千代田生命、昭和リース及び熊谷組等がその販売に協力することが予定されていること、及び本件和議条件による債務免除益等に関する税務処理について、明るい見通しがあること等にかんがみると、右会員権販売によって和議債権の弁済原資を調達することの可能性がないものとはいえないところ、仮に新規会員権の予定価格による予定口数の販売に支障が生じても、千代田生命、昭和リース及び京葉銀行が、不足資金について前記割合又は金額を上限に資金援助をする旨約していること等の諸事情を併せ考慮すると、本件和議条件を履行するに足りる弁済原資を調達する可能性があるものと認められる。

また、本件和議条件の履行には、申立人の関連会社である麹町財資、宮門城及び研修会館の各和議認可が不可欠の前提となるところ、当裁判所に顕著な事実(当庁平成八年(コ)第一七号、第一九号及び第二〇号事件の一件記録)によれば、その各自について、平成九年五月八日、各和議債権者集会が開催され、そのいずれについても和議が可決されたことが明らかである。また、各会社について、その和議の認否に関し、和議不認可事由の存在を認めることもできない。

(2) なお、一件記録によれば、申立人は、その募集にかかる預託金制ゴルフ会員の預託金払込みにつきローンによる融資をした京葉銀行に対し、右会員のローン支払債務を保証していたものであるが、京葉銀行は、申立人ら四社が和議開始申立てをした後、申立人の自行に対する預金債権と右保証債務の履行請求権を相殺したため、申立人において、右会員に対する事後求償権を取得するに至ったことが認められる。ところで、右事後求償権の発生の原因となった右保証契約が和議開始申立前に締結されていることから、和議債権である預託金返還請求権を自働債権、右事後求償権を受働債権とする相殺が許容されることにならないかという問題がある(和議法五条、破産法一〇四条二号但書中段)。しかしながら、法がこのような相殺禁止の例外を設けたのは、相殺の担保的機能を信頼し又は期待し得る債権者を保護する趣旨に基づくものであることにかんがみると、和議債権者がその負う債務を受働債権に供して相殺するためには、これを受働債権とする相殺を具体的に期待することが通常といえる程度に直接的な原因に基づいて、当該債務が発生したものでなければならないと解するのが相当である。したがって、本件のようなローン支払義務に関しては、履行を怠ったものであればあるほど相殺の許容によって有利な立場に置かれるという関係にあることから、右例外を設けた法の趣旨に照らし、相殺禁止の例外に当たらないものというべきである。

(3) そうすると、本件和議条件についてはその履行可能性がないということはできないから、和議債権者の一般の利益に反するものではない。

(二)  本件再建計画の実現可能性

本件ゴルフ場開業後の運営については、一件記録によれば、千代田生命、昭和リース及び京葉銀行が、申立人ら四社の事業承継会社に対し、前記のとおり必要が見込まれる約一三五億円に関し、概ね、千代田生命及び昭和リースがその各関係会社とともに各四割の比率、京葉銀行がその関係会社とともに二割の比率又は一〇億円の金額をもって上限とする支援を行う旨約しているほか、熊谷組、株式会社三越及び東映株式会社等からの応分の支援を得ることも見込まれること等の諸事情が認められ、これによれば、開業後の本件ゴルフ場について健全な運営が一応可能であると思料できるところであり、本件再建計画の実現可能性を認めることができる。そうすると、本件和議条件の履行をもって、新規ゴルフ会員への損失転嫁を図るものであるとはいえないものであり、本件和議条件の決議は、公序良俗に違反するものではない。

2  不利益な和議条件についての同意

和議条件は、各和議債権者に対して平等に設定されなければならず、不平等な和議条件を定めることは、不利益を受ける和議債権者の同意を得ないかぎり許されない(和議法四九条二項、破産法三〇四条)。そして、この不利益な和議条件の対象とされる和議債権者の同意は、和議債権の届出の有無にかかわらず、和議手続上知れているかぎり、不利益な和議条件の対象とされるすべての和議債権者から、裁判所に対する意思表示としてなされる必要があると解するべきである。けだし、和議債権の届出は単に和議債権者集会における議決権行使額の確定の前提となるにすぎず、認可された和議条件の効力は債権届出の有無にかかわらず、和議債権者全員に及ぶからである。また、右の同意については、和議債務者の和議の機会を設けられる利益を考慮すると、和議開始申立時には、現実に同意を得られていなくとも、和議債権者集会で決議をするまでに同意を得られる高度の見込みがあれば足りると解される。しかしながら、適法な和議条件を内容としない和議手続に和議債権者が関与せざるを得なくなる不利益や、不利益な和議条件への同意が和議手続の進行に伴う和議債権者集会の決議の存在等の不当な影響の下になされることを防止する必要性にかんがみると、遅くとも和議債権者集会における決議までには、現実に同意がなされる必要があると解するべきである。

そして、本件においては、不利益な和議条件の対象とされる和議債権者であると認められる千代田生命、東京芝林株式会社、株式会社橘屋、株式会社愛路圓、愛時資株式会社、ジ・アート企画株式会社、京橋ビルディング株式会社、昭和リース、三井造船株式会社、株式会社かんそうしん、株式会社共同債権買取機構、熊谷組、京葉銀行、三菱地所株式会社及び株式会社北海道拓殖銀行の全員が、当裁判所に対し、平成九年五月八日の債権者集会以前に、自らが不利益な和議条件の対象とされることを含めて、本件和議条件による和議に同意する旨の書面を提出していることが明らかである。

なお、前記野村ファイナンスの届け出る和議債権は、仮に存在すれば不平等な条件の対象となる和議債権になるが、その存在の証明について認め難いことは前判示のとおりであり、このように和議手続上知れている不利益な条件の対象とされる和議債権者と認められない債権者の同意までを要するものではない。

したがって、本件和議における不平等な和議条件の決議は適法なものである。

3  その他の和議条件の条項

本件和議条件に従った和議債権の弁済については、ゴルフ場開業後の新規ゴルフ会員権の販売が不可欠の前提をなすことから、本件和議においては、本件弁済期日までの間の和議債権の譲渡禁止の条項が必要となる。そして、このような和議条件についても、倒産した債務者の債務関係を債権者多数の譲歩によって整理することで、和議債務者の全面的な清算を回避するという和議制度の趣旨に反するものとはいえず、これを許容することができる。

4  その他の和議不認可事由

本件和議に関し、他に和議法五一条所定の和議不認可事由の存在することを認めることができない。

三  結論

よって、別紙和議条件による本件和議を認可することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官遠藤賢治 裁判官佐々木宗啓 裁判官菅家忠行)

別紙和議条件

一 債務者(申立人)、株式会社東京財資ゴルフ倶楽部(本店・東京千代田区麹町所在、旧商号株式会社協和開発。以下「麹町財資」という。)、宮門城カントリー倶楽部株式会社(以下「宮門城」という。)及び株式会社東京国際研修会館(以下「研修会館」という。)は、和議認可決定確定後、一年間以内に合併する。

二1 債務者は、預託金返還請求権を有する債権者(以下「預託金債権者」という。)に対し、千葉県山武郡芝山町において建設中のゴルフ場(仮称「東京財資ゴルフ倶楽部」という。)開業の日から三年間を経過した日、または、和議認可決定確定の日から六年間を経過した日のいずれか早く到来する日(以下「本件弁済期日」という。)以降、預託金債権者から退会申出のあった日より一か月以内に、預託金債権元本の二五パーセント及び入会金返還請求権等の預託金返還に関連する債権を有する場合にはその元本の六パーセントを支払う。

但し、預託金債権者は、本件弁済期日の一か月前から、退会を申し出ることができる。

2 預託金債権者が、ゴルフ場開業の日から二か月経過日までに退会の申出をした場合には、和議開始決定時に遡及して入会金返還請求権を有するものとする。

3 債務者は、和議債権元本の総額が金三〇〇万円以下の和議債権者(以下「特定債権者」という。)に対し、本件弁済期日限り、和議債権元本の二五パーセントを支払う。

4 債務者は、預託金債権者、特定債権者、千代田生命保険相互会社、株式会社京葉銀行、株式会社熊谷組、東京芝林株式会社、株式会社橘屋及び株式会社愛路圓を除く和議債権者に対し、本件弁済期日限り、和議債権元本の六パーセントを支払う。

5 債務者は、千代田生命保険相互会社、株式会社京葉銀行及び株式会社熊谷組に対し、和議債権元本の六パーセントを、二〇回に分割し、本件弁済期日の一年後から完済に至るまで、毎年同日限り、各和議債権元本の0.3パーセント宛を支払う。

三1 預託金債権者は、預託金債権元本の七五パーセント及び入会金返還請求権等の債権の元本の九四パーセント、並びに各利息損害金全額を、

2 特定債権者は、和議債権元本の七五パーセント及び利息損害金全額を、

3 預託金債権者、特定債権者、東京芝林株式会社、株式会社橘屋及び株式会社愛路圓を除く和議債権者は、和議債権元本の九四パーセント及び利息損害金全額を、

4 東京芝林株式会社、株式会社橘屋及び株式会社愛路圓は、和議債権全額を、和議認可決定確定日に免除する。

四 和議債権者は、本件弁済期日まで和議債権を他に譲渡することができない。

五 麹町財資、宮門城及び研修会館は、第二項の各支払につき、連帯保証する。

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